加藤周一の講演会「今、なぜ戦後か」 | 花の会

加藤周一の講演会「今、なぜ戦後か」

先日、『加藤周一の講演会』に行って来ました。
大きな教室のような部屋は満員で150名ほどの方が集まり、
86歳の加藤さんは以前よりも腰が曲がっておりましたが
助けも借りず、自分で歩かれて演壇に向われました。
お元気で、相変わらず、眼光は鋭く、言葉もよどみなく、
2時間に渡り、憲法第9条の大切さを話されました。

期日:平成17年10月11日火曜日
時間:午後1時から3時」
場所:朝日カルチャーセンター(新宿住友ビル48階)

演題:『加藤周一さんに聞く  今、なぜ戦後か』 

http://ameblo.jp/hananokai/entry-10012993989.html

(英語版)

講師:加藤 周一    
聞き手:成田 龍一 日本女子大教授

加藤氏の講演の要約   

加藤さんは前置きで『今日の題は「今、なぜ戦後か」ですが
後に、今日のこの時を表現する時、戦前と言うかもしれません』と話された。

第一章 今回の総選挙について

①小選挙区制は多数党に有利な選挙制度である。
 他国では政治の安定を目差して小選挙区制を導入したが
 日本では自民党への投票が減少してきたので保身の為導入した。

②日本は財政赤字・外交の行き詰まり等重要な問題が山積みしている。
 劇場型選挙になり、これらの問題に比べて、あまり重要性、緊急性のない
 郵政民営化をスローガンにあげて選挙は行われた。

③小選挙区制は第一位の人だけが当選するシステムである。
 現在の日本の社会的弱者の比率は失業率5%から換算して、
 20%以下ではないだろうか?
 小選挙区制は一部の人を切り捨てても、当選できる制度である、
 国民の20%に当たる弱者を切り捨て、80%を相手にする選挙をした。
 80%の人は昔に比べれば、良い生活をしていると思い、
 小泉改革を信じず、望まず、現状を変えたくないと考えた。
 野党の改革ではどのような社会になるかわからないと思い、
 政権交代を選ばなかった。

④選挙の結果、与党は国会の議席の3分の2以上を占めた。
 国会は、どのような法案でも、成立させる事ができる議席数になった。
 郵政民営化だけを選挙の争点にして行われた選挙なのに
 公約にもなっていなかった憲法改正を掲げるようになった。 
 
 憲法改正で一番問題になるのは第9条の改正です。。

第二章 憲法第9条について、

日本国憲法第9条 全文
『1日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、
  国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、
  国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 2前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、
  これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。』

①憲法を押し付けられたと言うが日本側にも理由はあった。
ⅰ外国は15年戦争の結果、日本が再び戦争が出来なくなる事を望んだ。
ⅱ大部分の国民は、これで戦争をしなくて済むのだと思い賛成した。

②私(加藤)はすべての戦争を否定しているわけではない。
 他国から侵略されそうになったり、侵略されたら戦争をしなければならない。
 この場合は憲法を改正して、強力な軍隊を持たなければならないだろう。

 現在のアジア諸国の状勢を見て、日本が直にも侵略される危険性はない。
 例えば中国は急速な経済発展をしている、人々の経済格差は拡大している。
 社会の安定のため、人々の生活水準を向上させなければならない。
 現在10億人とも云われる人口を抱えているのだから、
 現在の中国は外国を侵略する余力も時間もない。
 仮に中国が外国に侵略するとしたら、まず、ベトナムかロシア方面であろう。

 軍事的脅威はないのだから、憲法9条を改正する必要はない。

第三章 憲法9条を改正した場合の危険性

①軍事予算は増大し、強力な武器を持つようになる。持てば必ず使いたくなる。
 多額の軍事予算の世論議会対策として、武器を使用する機会を作るだろう。
 例として、原爆を作ったマンハッタン計画をあげた。
 原爆が完成した昭和20年の7月、ドイツは負け、日本の敗戦も濃厚であった。
 アメリカはあの時点で日本に原爆を投下する必要はなかった。
 何故、アメリカは原爆を投下したか、
ⅰ原爆を使って見たかった。原爆の威力を試して見たかった。
ⅱ莫大な予算を使ったので、どこかに理由をつけて使わなければ、
 議会から突き上げられる可能性があった。

②日米同盟を結んでいるので、米国が行う戦争に参加せざるを得なくなる。
 例えば、仮に中国が台湾に攻め込んだ時、
 アメリカは米台軍事条約のために中国を攻めるかもわからない。
 その場合、日本は9条を改正していなければ
 「中国が台湾を攻める事は中国の国内問題です、
  他国の国内問題に軍事介入はできない」と主張できます。

③アジア諸国は日本が再び侵略してくるだろうと警戒するようになる。
 アジア諸国との友好協力、平和共存の障害になる。

第四章
   今、日本国憲法9条を改正しても良い事はない。
                         以上      
参考文献
①加藤周一 「選挙の後に」  『夕陽妄語』
 平成17年(2005)9月21日 朝日新聞夕刊

②最近、加藤さんが書かれた憲法9条の本
  書 名:『9条と日中韓』
  著 者:加藤 周一 著
  定 価:630円(本体価格600円)
  出版社: かもがわブックレット157
  2005年9月  A5判 64頁
 内容
 1 周辺国にとっての九条
  ①日本の憲法は最初から国際問題
  ②日本の対外関係と九条
  ③十五年戦争の靖国的解釈 ほか
 2 もし九条がなかったら
  ①参戦しなかった日本
  ②朝鮮戦争と九条
  ③現実に働きかけてきた九条
 3 なぜ“いま”改憲なのか
  ①「戸締り論」
  ②確率の問題
  ③軍事的脅威が成立するための二つの条件 ほか
  出版社: かもがわブックレット157のHP
http://www.kamogawa.co.jp/moku/tyosya/ka/kato_syuiti.html

③加藤さんの講演録音です。
    『日本平和憲法9条の試練』
 加藤周一氏を囲んでその問題提起と懇談会(日本語、英語)~
 日時: 2005年5月30日(日) 午後6時半より9時まで
 場所: バンクーバー日本語学校並びに日系人会館
      (487 Alexander St.,Vancouver)
 この講演の録音は、以下のアドレスで聞く事が出来ます。
 加藤さんの講演の録音の欄は
 2005年6月3日の日付で18項目ほど下にあります。
http://ladio.livedoor.jp/mystation/?lid=czoom_am1320&cr=czuMWO6JQphkg

それから、憲法の事、英文の日本国憲法、
加藤さんの憲法9条に関する意見は
下記の二つのHPからも求める事が出来ます。
9条の会 http://www.9-jo.jp/
憲法会議 http://www.kenpoukaigi.gr.jp/


立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」から
第15回 自民党改憲案に異議! 憲法は誰を縛り誰を守るのか
http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050509_kenpo/


第16回 憲法第9条を死守して「崇高な理想」を貫け (2005.05.12)
http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050512_shisyu/

第17回 日本を軍国主義へ導く「普通の国」論の危険性 (2005.05.17)
http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050517_futunokuni/
第18回 靖国問題の決着へ向け 小泉首相、豹変せよ! (2005.06.02)
第19回 東京裁判を蒸し返す政治的愚行を繰り返すな! (2005.06.02)
第20回 靖国問題でいま改めて問う! 国立追悼施設以外に解決の道なし
(2005.06.02)

第21回 日本経済も血を流す アメリカとの軍事同盟許すな! (2005.06.10)
http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050610_usbase/

講師:加藤 周一    
1919年東京生まれ。評論家。
東京帝国大学医学部卒。医学博士。
一高在学中に福永武彦、中村真一郎らを知り、
医学部進学後、マチネ・ポエティックに参加。
1951~55年、給費留学生として渡仏し、
医学研究のかたわら、フランスを中心にヨーロッパ各地の文化を研究。
帰国後「日本文化の雑種性」などを発表。ベルリン自由大学教授、
エール大学講師、上智大学教授などを歴任。
1980年「日本文学史序説」で大仏次郎賞を受賞。
ほかに評論「文学と現実」「抵抗の文学」
「現代ヨーロッパの精神」自伝「羊の歌」など多数。
社会、文化の面で幅広く活躍をし、戦後社会に多大な影響を与える。
 
聞き手・日本女子大教授
成田 龍一(なりた・りゅういち)
1951年大阪生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程中退。
専攻は、近現代日本史。現在、日本女子大学人間社会学部教授。
主な著書に、「故郷という物語 都市空間の歴史学」
「戦争はどのように語られてきたか」(共著)
「歴史学のスタイル-史学史とその周辺」
「〈歴史〉はいかに語られるか-1930年代「国民の物語」批判」
「司馬遼太郎の幕末・明治-『龍馬がゆく』と『坂の上の雲』を読む」
「日露戦争スタディーズ」(共著)などがある。